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月報2021年6月号〜素材の良さを掛け合わせ、自慢のクリニック作りを

 「オズの魔法使い」という童話があります。ドロシーという女の子が、脳のないカカシ、心のないブリキの木こり、勇気のないライオンとオズの魔法使いに会いに冒険の旅に出るお話です。みんなそれぞれに自分にないものを魔法使いに与えてもらおうと旅を続けます。そして旅の途中で出会う難題に力を合わせて立ち向かいます。藁でみんなを隠すことのできるカカシ、ハチに刺されても平気なブリキの木こりが活躍します。勇気のないライオンもその姿で悪者を怯えさせます。自分ではできないこともチームのなかでお互いの得意なことで補い合えば、それぞれに持つ力を発揮して困難を乗り越えていけます。今回はチームの力とそれを引き出すリーダーの役目についてお話ししてみようと思います。

■他人を認め合う欧州文化の多様性

 私は日本の複数の会社を経て40代後半でオランダの航空会社に入社し再びCAになりました。はじめてヨーロッパの企業で働いてみて驚いたのは仲間たちの多様性でした。オランダでは定年を67歳まで選択でき、同僚たちは老若男女そして経験も国籍もみんなバラエティに富んでいます。ですがそこで価値観がぶつかり合ってバトルになることはほとんどありません。なぜなら「みんなが同じであるべき」とは考えず「お互いがそれぞれ持っている良さ(=多様性)を認め合う」ことが共通する文化だからです。
 実際にフライトの現場でもその考えは浸透しています。乗務前のブリーフィングで客室責任者のシニアパーサーから「みなさんの得意なことを教えてください」と明るく投げかけられることがあります。みんなニコニコと「私は看護師の経験があるから急病人が出たら任せてね」などと話します。最初にその質問をもらったとき、新人の私は何も思いつかず言葉に詰まってしまいました。すると隣りのオランダ人クルーが「トモコは今日のお客様のバースデーカードを用意してくれてるから、トモコの得意なことは『準備をすること』よね!」と言ってくれました。彼女たちの考え方や優しさに感銘を受けると同時に、この環境で働けることに大きな誇りと安心感を覚えました。そして新人で文化背景もまったく異なる私でもチームの一員として大切に受け入れられていることを実感しました。
 このようにチームのトップの働きかけで、みんなが安心して仕事ができ、チームがいいパフォーマンスを発揮できるような企業文化を作っていくことができます。

■シェフの役目は素材を活かすこと

 クリニックで提供する医療サービスを「スープ作り」に例えてみましょう。シェフは院長先生で、スープの鍋がクリニック、素材がスタッフさんです。 鍋の中には玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモなど色々な素材が入っています。それぞれの野菜たちがどんなにいい素材でも単独でスープを作ることはできませんが、それぞれがもつ旨味が溶けあったとき美味しいスープができあがります。素材をうまく掛け合わせることで、1+1を2ではなく3にも4にもすることができるのです。
 甘み、塩味、酸味、そして苦味すら味を引き立てる大切な役割を担います。その素材の違いこそが鍋の中のスープを味わい深くします。シェフの役目は素材をよく知りその力を引き出すことです。だからこそシェフは「うちのスープは自慢の野菜を使っていますよ!」と誇りをもって素材ひとつひとつの良さを説明しますし、お客様も喜んでそのスープを注文されます。
 一方で、素材(スタッフ)の良さをうまく引き出せずにお悩みのケースもあります。そんなとき私たちは教材を使ってそれぞれの得意分野や苦手分野の傾向を分析し、先生やスタッフさんと共有します。「私は上手くできないけど、あの人には簡単にできるのね」「私が得意なことでも他の人は苦手なんだ」と気づくと、お互いが自分との違いを理解して尊重し合えるようになります。そして試行錯誤しながら自分たちにしか作れないクリニック独自のスープのレシピができあがっていきます。
 オズの魔法使いでドロシーと3人の仲間は、自分たちが欲しがっていたものは実は最初から自分が持っていたことに気づきます。仲間から信頼され一緒に困難に立ち向かうなかで自分の力を知り、自信をつけて強くなっていったのです。
 クリニックでもチーム全員が互いの良さを認め合い、それぞれが持つ力を引き出し成長させられるところはチーム全体が強くなりパフォーマンスが向上します。リーダーにそのような環境作りができれば、スタッフさんにも患者様にもさらに愛される自慢のクリニックとなるでしょう。
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