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月報2021年4月号〜「教育・共有・共鳴」が、人を育てる

 新年度を迎え、新しいスタッフさんが加わったクリニックもあるでしょう。そこで今回は「人が育つ環境」について考えてみたいと思います。
 航空会社では国際線の新人CAの場合、2 ~3か月ほどの地上訓練を経てOJTで旅客便に乗務し、先輩CAのマンツーマン指導のもと保安業務とサービス業務を習熟します。一般企業でも新入社員研修は少なくても丸一日、多い場合は一週間の合宿などを実施します。
 医療現場ではそこまでの机上教育は不要と思われるかもしれません。それでも日々の業務を繰り返すだけでなく、新たな知識や技術を理論からしっかり学んだり専門分野以外のことも興味をもって吸収したりする人のほうが、達成感や満足感を感じ成長を続けていけるでしょう。

■南太平洋上空での共鳴

 新人CAは新入訓練という「教育」を受けて一定の業務ができるようになります。しかしひとたび乗務すれば新人もベテランも関係なくお客様には同品質のサービスを提供しなければなりません。では人による経験のばらつきは、どうしたら少なくできるでしょうか。それは知識や経験の「共有」です。
 私が乗務して間もないころ、オーストラリア線は新婚旅行の行き先として人気の路線でした。飛行時間は9~ 10時間でアメリカ西海岸線とほぼ同じですが時差はほんの1時間です(オーストラリア東部標準時)。そのため帰りのフライトは、シドニーを早朝に出発して成田に午後到着というデイフライト(外がずっと明るい昼便)でした。この飛行ルートには「バタフライアイランド」という蝶が羽を広げた形のコバルトブルーに輝く小さな無人島があり、「見た人には幸せが訪れる」といわれ多くのハネムーンのお客様がその島を楽しみになさっていました。
 あるとき出発前のブリーフィングでチーフパーサーがこんな話をされました。「オーストラリア線は若いお客様も多いですが、ご年配の方にも思い入れの深い路線です。なぜなら太平洋戦争の激戦地の上空を飛びますからね。今日のキャプテンはそのことに詳しく戦時中の出来事や場所を書き込んだ地図をおもちですよ。興味がある人はキャプテンに聞いてみてくださいね」。
 その日の機内であるご年配の男性が「ニューブリテン島まで、あとどれくらいですか?」と何度もお尋ねになり窓の外をずっとご覧になっていました。バタフライアイランド以外の島の場所を聞かれたのが初めてだった私は、そのときチーフパーサーの言葉を思い出しました。すぐにコックピットで飛行位置を確認し、キャプテンから例の地図をいただきお客様に差し上げました。お客様はとても感激され「わぁ、これは…。ありがとうございます。実は弟がこのあたりで戦死しまして…。遺骨も戻ってきてないんです」とお聞かせくださいました。そして後日、クルーの気遣いが嬉しかったとお礼状までいただきました。
 チーフパーサーからその話がなければ私にはこのお客様の思いを察することはできませんでした。チーフパーサーやキャプテンからの知識や経験の「共有」が、経験の浅い新人 CAでもお客様に喜ばれるサービスをご提供できた例です。私自身もお客様の様子に気づいてそれをキャプテンやクルーと「共有」し、お客様の心のなかの響きを感じ「共鳴」できたことで、小さな自信がつきました。

■成長の実感がモチベーションに

 接遇研修でクリニックにうかがうと「歯科助手資格認定講習会」で私の講義を受けられた方にお会いすることがあります。この講習会では歯科臨床概論や歯科の実務をはじめ接遇マナーなど多くの項目を6日間かけて学びます。受講された皆様は「講習会のおかげでバラバラだった知識がつながって、自分がやっていることの意味が分かりました!」とおっしゃいます。これが「教育」の効果であり知識の「共有」です。私自身もこの講習会でポケットプローブとスプレッダーの違いと用途を知りました。
 ある日現場で先生に「ポケットプローブを取って」と言われたことがあり、私がすぐに理解したので先生にも喜ばれ私も嬉しかった記憶があります。これも「共鳴」で、相手と自分の喜びが互いに増幅します。たとえささやかな成長でもこのような達成感や満足感を感じられると、その職場や業種で仕事を続けるモチベーションになります。
 読者の方々と今回のお話を共有して、皆様の胸にも共鳴するなにかがあればとても嬉しく思います。
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