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月報2020年12月号〜クリニックにジェット気流を

 航空機は地球のジェット気流に乗って世界の空を飛びます。この気流は西から東に吹いていて、時には秒速100メートルと台風以上になることもあります。同じ航路でも、西から東に向かう便のほうが速いのはこのためです。
 その気流は、中心 に流れの速い軸があり、周辺の風を巻き込んでスピードを上げます。ところが、普通の風は流れのなかのどこをとっても平均的で、速さに差はありません。クリニックでも、スタッフ全員を「平均的に」育てるより、それぞれの得意分野を「軸」にして、周りを巻き込むように活躍してもらうほうが、勢いと活気のある職場になります。

■仲間の強みを把握する

 私が最初の航空会社で国際線に乗務していたころは、入社後3年間はエコノミーとビジネスクラスしか担当できませんでした。ファーストクラスは乗務経験を重ね、「最上クラスに見合う技量を身に付けている」と判断されてからでした。あるフライトでビジネス担当の私が、先輩CAに連絡する用事があり、サービスが一段落したファーストクラスのギャレーに向かった時のことです。CAが待機するギャレーのシーリングライト(天井灯)が「BRIGHT」になっていることに気づきました。サービス後は客室に照明が漏れないよう、ギャレーも少し暗くすることになっています。これはクラスに関係ありません。私はスイッチを「DIM(薄明かり) 」に回して、照明を落としました。すると先輩が「えらい よく気づいたね。気にしない人も多いけど、すごく大事なことよ 」と褒めてくれました。
 私はもともと動作がのんびりで、食事や飲み物のサービスなど、効率よく仕事を進めなければならない場面では劣等生でした。でも、憧れのファーストクラスにお邪魔して、先輩に褒められたのですから、「私にも得意分野があるんだ 」と大きな自信になりました。
 どんなに小さなことでも、何かひとつ自信がもてると、それを軸にして他のことも徐々に上手くできるようになっていきます。動作が機敏でない私も、仲間のCAのサービスのスピードに追いつくように、声掛けを工夫したり、リクエストの多い物品をエプロンのポケットにあらかじめ入れていったりすることで、動作の遅さをカバーできるようになっていきました。私の強みは、個々の仕事のスピードではなく、時間をかけずにできる、ちょっとした配慮や工夫でした。

■「ジェット気流」を推進力に

 クリニックのスタッフ同士の関わりでも同じです。得意分野は人それぞれにあり、経験の長さや担当とは関係ありません。スタッフさんのなかでその分野が一番得意な人がジェット気流の軸となり、他のスタッフさんを巻き込んで勢いよく進んでいってもらえばいいのです。そして、自分が得意なことでジェット気流になって、みんなが行きたい先に連れて行ってあげられれば、本人も嬉しく仲間にも感謝されるでしょう。
 たとえば、新人のスタッフさんなら よりも元気にあいさつができることが、みなさんの一日のモチベーションを上げるでしょう。ベテランのスタッフさんなら普段疑問に感じることをもとに業務手順を改善し全体の作業効率を上げることで、診療やお会計などの全体の流れがよりスムーズになるでしょう。院長先生は安心して勤務できる明るい雰囲気づくりができれば、スタッフさんが言いづらいことも話しやすくなり、それがスタッフさんの定着や仕事への満足感に繋がるでしょう。そしてそれらはすべて、クリニック全体の強みになります。
 仲間の強みをしっかり把握して尊重しあうことは、より多くのジェット気流を集め勢いを増すことと同じです。ジェット気流に乗ったクリニックは自然に加速し、遠くまでより楽に飛ぶことができるでしょう。
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