BLOG

月報2021年3月号〜言葉遣いを変えて、接遇水準を向上

 今回は、言葉遣いについて考えてみたいと思います。私が20代のとき、このようなことがありました。そのころ私は、 CAとして乗務する飛行機の中にお子さんがいらっしゃると、カジュアルな「友だち言葉」で対応していました。「はい、これ、飛行機のおもちゃ!どれがいい?好きなのを選んでね」といった話し方です。そのほうが、親しみやすさが伝わると信じきっていました。でもあるとき、フライト後のデブリーフィング(クルー全員でフライトの振り返りなどをする打合せ)の場で、先輩CAからこのようなフィードバックがありました。「お子さんは自分がどういう扱いをされているか、言葉を聞いてすぐわかります。また、あまりにカジュアルだと付き添いの親御さんから、『うちの子を馬鹿にしたような話し方をした』とクレームが来るケースもあります。お子さんに話しかける際は、大人のお客様と同じようにしましょう」ということでした。

■「子どもには、くだけた友だち言葉で」が正しくない訳

 そう聞いたときは、「だけど、子どもさんに敬語で話すと慇懃無礼な感じがしないかな?」と半信半疑でしたが、次から私も、子どもさんに対して敬語で話すようにしてみました。すると、これが思った以上にいい効果がありました。
 子どもさんは、子ども扱いをすれば子どもになるし、大人の扱いをすればきりっと大人らしくなります。不思議なことに、言葉遣いに見合う空気がそこに生まれるのです。カジュアルな言葉遣いで尋ねたら、もぞもぞして親御さんの顔を見ておもちゃを選ぶお子さんが、「今日はありがとうございます。お好きなものを、どうぞこちらから選んでください」と伝えると、ちょっと誇らしげに、ご自身で好きなものを選んでくださいます。敬語といっても、「尊敬語」や「謙譲語」を使うのではなく、「丁寧語」の「です」「ます」調で話せば良いのです。その言葉遣いで、こちらの気持ちは充分に伝わります。そしてここで大切なことは、話しかける私たち自身が、心からその相手を大切にする気持ちをもつこと、そして、腰を落とし自分の目線をそのお子さんと同じ高さまでもっていくことです。この気持ちと振舞いがあれば、顔には自然といい笑顔が生まれているでしょう。
 この①気持ち、②振舞い、③笑顔の3つが揃っていれば、お子さんに敬語で話して慇懃無礼になることはまったくなく、むしろサービス品質やその場の空気感が確実に良くなります。そして、大人として大事に接してもらったことが嬉しかったお子さんは、その後ずっと、成人となられてからも、リピーターとして私たちを選んでくださる「長年のお客様」になるかもしれません。

■患者様はスタッフや先生の言葉遣いを聴いている

 このように、言葉遣いはサービス品質を左右する大切な要素のひとつです。私がクリニックや企業の接遇研修の依頼を受けると、まずは一般の顧客として電話をかけ、どのような言葉遣いをなさっているか聴いてみることから始めます。なぜならば、スタッフさんの言葉遣いは、そのクリニックや企業の接遇水準をおおむね表しているからです。
 患者様も、クリニックでの先生やスタッフさんの言葉遣いには敏感です。患者様ご自身に対してはもちろんですが、先生やスタッフさんが他の患者様のことを(ご本人がいないところで)どのように話しているか、また、先生がスタッフさんに指示を出すときの言葉遣い、スタッフさん同士の会話などを自然に耳にしています。
 「〇〇さんってさ、この前は△△だって言ってなかったっけ?」、「〇〇ちゃん、あれ持ってきて」、「あ、ごめーん!これ間違えちゃったよ」といった言葉遣いを聞くと、患者様への配慮がなく、緊張感がない職場のような印象や誤解を与えてしまう可能性があります。少し変えて、「〇〇さんは、△△ とおっしゃってましたよね」、「〇〇さん、△△をお願いします」、「失礼しました。こちらが正しいですね」という言葉遣いにできれば、患者様は安心し、心地よく感じてくださるでしょう。
 言葉遣いは、その場ですぐに変えられて、まったく費用のかからない、とても有益な接遇スキルです。皆様のクリニックにも、言葉遣いのきれいなかたがいらっしゃると思います。そのかたは言葉遣いだけでなく、①気持ち、②振舞い、③ 笑顔の三拍子が整ったかたではないでしょうか。そのどれかひとつでもスタッフみんなで真似をしていくと、クリニック全体の接遇品質がさらに上がっていくでしょう。
PAGE TOP